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これはとある不幸な少年と自らを禁書目録と名乗る少女が出会う数年前の話 ========================================-- イタリア最大の都市、ローマ。 その巨大な都市の中心部から少し外れた住宅街にアニェーゼ=サンクティスは居た。 「パパ!早くしないと遅れちまいますよ!」 「分かった分かった、今行くから待ってろって」 家からなかなか出てこない父を急かす少女、アニェーゼは緑のワンピースに履くのが難しいと評判の「チョピン」と呼ばれる細長いサンダルのような 靴を履いていた。それを器用に履きこなしながらさらに父を急かす。 「せっかく、パパが休みとったのに出発時刻に1時間以上遅れるなんて.....、やっぱり今日はやめにしませんか?」 「わ、分かった!分かったから頼むから今日は付き合ってくれ!」 「分かりました。六十秒数えますからそれまでに来なかった場合は家のソファで寝そべりながらのTVタイムに移行します。はい、い~ち、」 「よ、よし。たった今準備が完了した。じゃぁ、出発しようか」 「(....ちっ、間に合っちまいましたか)」 「おい、実の父親にその言い方は無いんじゃないか!?」 「まぁ、もういいからさっさと行きましょう。こんなことしてても時間の無駄ですから」 「そうだな。じゃぁ出発だ」 今日は休日だった。休日といっても神父である父が「たまには娘と一日過ごそう!」とかいって、半ば無理やり仕事を休んで無理やり作った休 日であるのだが。 「で、結局どこ行くんでしたっけ?かなりいきなり誘われたので出かける理由をまだ聞いてないんですが」 父の運転する日本製の軽自動車の助手席に座りながら、アニェーゼは質問する。 「いやぁ、最近は我が愛娘と過ごす時間が少なくなったな、と思ってな。たまには一緒の外でご飯で食べようかと」 アニェーゼの目が少し細くなる。 「.....ほかには?」 「あとショッピングとか。お前に新しい服でも買ってやろうかと」 「まだあるでしょう?」 この時、アニェーゼの顔は完全に疑心暗鬼を表していたが、父は気づかずに素で答えた。 「ん?まぁ、あとは夜は二人でホテルでも借りて親子の愛を育もうかと思」 「それ以上言うと法に引っかかりそうなんでよしてください。小学4年の娘を狙うなんてどうゆう神経してんですか、このロリコン野郎」 「あ、アニェーゼ、そんな言葉どこで覚えた!?」 「ママに教わりました。あと、パパには気をつけなさいと」 「カテリナめ、娘にそんなこと教えこませるなんてどういう神経してるんだ....」 「あなたは絶対に人のこと言えませんが」 親子が車内コントを繰り広げているうちに父の行きつけ(自称)の高そうなレストランに到着した。 「ほんとは適当に町を見回ってから来ようと思ったんだけどな。予想以上に時間が詰めてきたから先にご飯食べちゃおうか」 そしてアニェーゼの父が店に入ろうとしたとき、 「ママは待たなくていいんですか?」 後ろからアニェーゼの質問が飛んできた。 その言葉に父は少しだけ眉間に皺を寄せた。 「....何度も言わせるな。カテリナは来ない」 「冗談ですよ。絶対にありえないことを望むほど私は子供ではねぇですから。家の玄関で一時間以上待ってたせいで腹はすかすかなんです。早く入り ましょう」 「....そうだな」 その言葉に父も同意して二人は店に入っていった。 アニェーゼ=サンクティスが母親に会うということは彼女の言う通り『絶対』にありえなかった。 たとえ、彼女が神だったとしても。 (そうですよ。私はまだ未練がましく『待つ』なんて言ってるんですか) 殺された母親に会うのは何をどう考えても不可能だったからだ。
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある底辺と頂点の禁断恋愛 プロローグ 『最下層の生活』 学園都市、人口230万人。その8割以上が学生という街だ。 世間から技術力が30年も進んでおり、何より特徴的というのが『能力開発』。 そんな学園都市の能力者はレベル0からレベル5の六段階に分けられている。 その様な格差が出来てしまっている学園都市では『格差社会』となったおり、優遇され、裕福に暮らせる貴族のような扱いのレベル4、レベル5。 逆に冷遇され、貧乏な暮らしを送っているのはレベル0やレベル1だ。 その中でも知名度が格段的にある第三位の『超電磁砲』。 学園都市の女王と呼ばれ、また『姫君』や『エリザベス』と呼ばれていた。 その正反対の呼称がある上条当麻。『大罪人』、『悪魔』などと呼ばれ最下層人物としてそれ相応の暮らしをしていた。 しかし上条は『大罪人』と呼ばれても『悪魔』と罵られても。あの行動を後悔しない。 「……不幸だー。今日の晩御飯は鮭の塩焼きと白ご飯~。はぁ足らねぇよなぁ」 照明がピカピカ、と光ったり消えたりを繰り返していく。 部屋の隅には蜘蛛の巣が貼ってあったり、ふすまにはキノコが生えている。 とってもとっても生えてくるのが何故か悲しい。 上条は学園都市でも三人しか居ない『最下層人物』だ。それ相応の暮らしを用意され、奨学金は雀の涙にも及ばない。 たったの七千円。一ヶ月をこれで暮らすのは不可能に近い。 「このキノコって食えんのかな?」 ふすまに生えたキノコを見つめていった。しかし頭をブンブンと振ってキノコを強引に引きぬいた。 そして壊れかけの窓を開いて、投げた。 ポチャン、と音がして川に流れたのが分かった。 「さ、さて食うか」 上条は箸を加えて骨がところどころ見える鮭をつまんでいく。 そして白ご飯と一緒に口に含んでいった。 それにしても暑い。蒸し暑い。外は雨で、天井から雨漏りしてバケツからは雨が溢れていた。 上条の体は雨臭い。そうだ、雨で体を洗っているからだ。 無能力者(レベル0)でもこんな暮らしをしている人は居ないだろう。上条は少し泣きたい気持ちになった。 「……ごちそうさま」 鮭を冷蔵庫になおす。固まった白ご飯を雨水で綺麗に流しそしてシンクに置いた。 梅雨。6月の真ん中で、湿気と雨が上条家を襲う。 キノコがそこら中に生えて、随分前には制服にも生えていた。 「はぁ、一度でいいから肉食ってみたいな」 そんな時だった。壊れかけの木のドアがドンドン!と叩かれた。 「はい?」 「カミやーん、俺だにゃー」 「おお、土御門か。今昼飯食ったとこだ」 ドアを開けて、傘をさしている土御門を招き入れる。 彼の手には半分食べた野菜炒めがあって、上条に手渡す。 「……ありがとうな。土御門」 「いいんだぜい?」 そう言って土御門は上条家を出た。 上条は冷蔵庫になおして、湿っている畳みの上に寝転がった。 ボサボサで傷んだ髪の毛を掻いて、そして硬い床で昼寝をする事にする。 * 「アレイスター、お前の幻想殺しはあんな極貧の生活を送っているが」 「もう幻想殺しなど必要ない。もちろん、エイワスを顕現する事も出来ない。プランはもう完成する事すら出来ないのだ。 学園都市の体制の崩壊によってな。統括理事会などもう何の権限もない。 今、一番力を持っているのは外部個人主義組織だ。体制は既に『格差社会』になっている。 警備員(アンチスキル)も風紀委員(ジャッジメント)も存在しない私の作っていた学園都市とは全く違ったモノになってしまった訳だ」 「それで、無能力者達に支援していると言う訳か」 アレイスターと呼ばれた者は大きな生命維持装置の中で培養液に浸かりながら苦虫を噛み潰した様な表情をした。 しかし決してこの格差社会を打開できない訳じゃない。 全体の六割を占める無能力者を使えば。 「土御門、学園都市はもうすぐ改革するぞ。幻想殺しはあんなに有意義な者だとは。彼は誰よりも良い位置にいる。 底辺と頂点か……こういうのは嫌いなんだが」 「何が言いたい」 「直に判る。それまで彼が死なない様に支援しておいてくれたまえ」 「……アレイスター……あとで泣きを見るのはお前だ」 「ふふ、それは―――楽しみだ」 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある底辺と頂点の禁断恋愛
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23スレ目ログ ____ ________________ 23-014 コスモス(22-047) 全力で貴方たちを倒す! if√ 3 23-024 サッド(22-344) とある底辺と頂点の禁断恋愛 8 最終話 学園都市の崩壊と自覚と救出 23-034 さわわ(22-733) もう一度 23-041 虚無(22-525) 小ネタ 素直になれれば 23-055 23-045氏 小ネタ 23-062 くまのこ(17-598) こぼれ話 1 上条美琴の禁書目録こぼれ話 23-071 ナナ氏(20-146) (無題)3 23-082 虚無(22-525) embrace 23-089 花鳥風月(6-752) 9年越し 23-110 ダニエル(19-956) とある少年の教育実習 4 23-121 サッド(22-344) Parallel World Trips 1 Prologue ノルン三姉妹の末っ子の名前はスクルド 23-134 さわわ(22-733) 小ネタ 学園都市のバカップル 3 愛の重さ 23-148 ・・・(22-517) とある不幸なHappy days 16 御挨拶 第一章 出発 23-153 くまのこ(17-598) とある雑誌の能力占い【フォーチュンテリング】 1 23-160 さわわ(22-733) 小ネタ 予告 23-167 はりねずみ(23-141) 少年の覚悟と少女の決意 1 chapter1 電撃少女と雷様 23-175 はりねずみ(23-141) 少年の覚悟と少女の決意 2 行間 23-178 はりねずみ(23-141) 少年の覚悟と少女の決意 3 chapter2 悩める少女と最高の後輩~best firend~ 23-182 はりねずみ(23-141) 少年の覚悟と少女の決意 4 行間2 23-187 はりねずみ(23-141) 少年の覚悟と少女の決意 5 chapter3 大切な人のために~love~ 23-190 はりねずみ(23-141) 少年の覚悟と少女の決意 6 終章 全てを見通す科学者~wizard~ 23-194 はりねずみ(23-141) 少年の覚悟と少女の決意 7 番外編1 23-202 はりねずみ(23-141) 少年の覚悟と少女の決意 8 番外編2 その手で掴んだもの 23-207 さわわ(22-733) とある乙女の小さな願い 1 プロローグ 乙女の日常 23-212 ・・・(22-517) とある不幸なHappy days 16 御挨拶 第二章 御挨拶 23-217 はりねずみ(23-141) 小ネタ 砂糖よりも甘い空間 23-222 さわわ(22-733) とある乙女の小さな願い 2 1章 乙女の不安 23-231 くまのこ(17-598) とある雑誌の能力占い【フォーチュンテリング】 2 23-241 はりねずみ(23-141) 2人で歩むと決めた未来 23-244 さわわ(22-733) とある乙女の小さな願い 3 2章 乙女の苦悩 23-254 ・・・(22-517) とある不幸なHappy days 17 御挨拶 第三章 帰宅 23-262 さわわ(22-733) とある乙女の小さな願い 4 3章 乙女の決意 23-269 はりねずみ(23-141) 失ってしまった幸せ 1 序章 限りない幸せ~familiar~ 23-278 はりねずみ(23-141) 失ってしまった幸せ 2 第1章 その手から零れた掛け替えがないもの~sacrifice~ 23-280 はりねずみ(23-141) 失ってしまった幸せ 3 第2章 失くした心~despair~ 23-286 さわわ(22-733) とある乙女の小さな願い 5 終章 乙女の真実 23-292 さわわ(22-733) とある乙女の小さな願い 6 エピローグ 乙女の願い 23-297 はりねずみ(23-141) 失ってしまった幸せ 4 行間 23-297 はりねずみ(23-141) 失ってしまった幸せ 5 第3章 絶望の底に差した光~salvare000~ 23-298 はりねずみ(23-141) 失ってしまった幸せ 6 第4章 取り戻した笑顔~friend~ 23-298 はりねずみ(23-141) 失ってしまった幸せ 7 最終章 この手に戻った幸せ~familiar~ 23-303 さわわ(22-733) とある乙女の小さな願い 7 特別編 舞台裏 23-316 はりねずみ(23-141) 小ネタ 甘いシュークリームが2つ 23-321 トワノハテ(23-319) 春、始まり 23-326 コスモス(22-047) 全力で貴方たちを倒す! if√ 4 23-336 はりねずみ(23-141) 小ネタ お内裏様と2人のお雛様 23-340 ・・・(22-517) とある不幸なHappy days 18 とある不幸な遊園地デート《上琴勢力》 23-350 コスモス(22-047) 全力で貴方たちを倒す! if√ 5 23-357 くまのこ(17-598) こぼれ話 2 超電目録こぼれ話 絶対能力進化実験 前編 23-371 トワノハテ(23-319) 春、来たれり 23-386 はりねずみ(23-141) ひらりと桜が舞う頃に 23-399 ・・・(22-517) とある不幸なHappy days 19 とある不幸な Happy end 23-407 はりねずみ(23-141) 小ネタ バカップルの1番の被害者 23-413 さわわ(22-733) 小ネタ 学園都市のバカップル 4 春休みには 23-418 くまのこ(17-598) 小ネタ 店員が好きな人だと得した気分になるよねって話 23-436 ・・・(22-517) 小ネタ よくあるお話 23-439 コスモス(22-047) 全力で貴方たちを倒す! if√ 6 後日談 23-451 JIN(23-443) とある二人の暗部生活 1 序章 消えたアイツ 23-462 コスモス(22-047) 小ネタ とあるバカップルのインサイドプレイ 23-467 くまのこ(17-598) 小ネタ とあるカップルのすごい特訓 23-473 ・・・(22-517) 小ネタ ど根性なのであります!! 23-477 JIN(23-443) とある二人の暗部生活 2 第1章 アイツとアホ毛 23-488 トワノハテ(23-319) バルーンハンター 23-499 ・・・(22-517) 小ネタ 三段活用 23-514 JIN(23-443) とある二人の暗部生活 3 行間 23-533 コスモス(22-047) もし美琴が同棲してたら 23-550 トワノハテ(23-319) バルーンハンター 前日譚 23-559 ・・・(22-517) 小ネタ 劇的!! 23-563 JIN(23-443) とある少女と堕ちた少年 1 序章 悪夢を越えた先にある闇 23-572 23-571氏 (無題) 23-584 JIN(23-443) とある少女と堕ちた少年 2 第1章 別れと仕事 23-592 はりねずみ(23-141) 素直になれない者 23-601 JIN(23-443) とある少女と堕ちた少年 3 第2章 戸惑いと安らぎ 23-628 くまのこ(17-598) Black Message 23-640 ・・・(22-517) 小ネタ デコレーション 23-645 コスモス(22-047) 福引きで変える二人の関係 23-656 トワノハテ(23-319) 振り回される人々 23-676 虚無(22-525) とある二人の掌中之珠 1 23-678 虚無(22-525) とある二人の掌中之珠 2 行間一 23-681 さわわ(22-733) 想いのかたち 23-692 ・・・(22-517) 小ネタ ホワイトデー終了のお知らせ 23-694 トワノハテ(23-319) 小ネタ ホワイトデー終了のお知らせ そして・・・ 23-703 風花(19-114) みこにゃんの日常 ななっ! それは一種の… 23-706 トワノハテ(23-319) とあるファミレスのバカップル 1 23-716 つばさ(4-151) 許嫁狂詩曲(ラプソディ) 1 23-730 幻影(23-724) とある二人は反逆者 1 第一部 序章 23-736 幻影(23-724) とある二人は反逆者 2 第1章 ①二人の出会いと別れ 23-741 トワノハテ(23-319) とあるファミレスのバカップル 2 23-746 幻影(23-724) とある二人は反逆者 3 第1章 ②家族と絆と… 23-752 つばさ(4-151) 許嫁狂詩曲(ラプソディ) 2 23-774 幻影(23-724) 小ネタ 幸せの代価 23-784 ・・・(22-517) 小ネタ ノーカン 23-792 虚無(22-525) とある二人の掌中之珠 3 23-794 虚無(22-525) とある二人の掌中之珠 4 行間二 23-795 虚無(22-525) とある二人の掌中之珠 5 23-797 虚無(22-525) とある二人の掌中之珠 6 行間三 23-806 幻影(23-724) とある二人は反逆者 4 第1章 ③罪を背負いし者と最後の妹 23-812 さわわ(22-733) 幸せのかたち 23-833 トワノハテ(23-319) とあるファミレスのバカップル 3 23-844 くまのこ(17-598) こぼれ話 3 超電目録こぼれ話 絶対能力進化実験 中編 23-862 幻影(23-724) とある二人は反逆者 5 第2章 ①安らぎの時 23-894 くまのこ(17-598) 誰でも簡単! なんちゃって読心能力者 23-902 コスモス(22-047) 占いで幸せになる二人 23-910 ・・・(22-517) 被害者 1 佐天 23-920 さわわ(22-733) いつまでも貴方の側に 23-927 トワノハテ(23-319) とあるファミレスのバカップル 4 23-942 幻影(23-724) とある二人は反逆者 6 第2章 ②科学と魔術 23-956 ナナ氏(20-146) (無題)4 23-972 幻影(23-724) とある二人は反逆者 7 第2章 ③決断と信頼と… 23-980 幻影(23-724) とある二人は反逆者 8 第3章 ①シスターと天草式 23-994 ・・・(22-517) 花見 ▲
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とある教師の進路相談 肌寒さに急かされて重いまぶたをゆっくりと開く。 月明かりのスポットライトに照らされて、星屑と身を寄せ合うように埃(ほこり)たちは輝き、部屋中を舞い踊る。 夜は好きだ。 恥ずかしさもなく、素直にそう思う。 無粋な呼吸一つで静けさを失ってしまうその儚さは、世界をより鮮明により先鋭に変化させる。がらにも無いがそれはとても美しい 光景だ。 けれど、だからこそ——、 夜は怖い。 強調された世界では、曖昧に生きている自分がひどく浮いてしまう。 病室にいるときはいつもそうだ。 誰かを救うことができたという充実感。誰も本当の自分を知らないという孤独感。 二つの感情が飽きもせずメリーゴーランドのようにやってくる。 こんなときはひたすらに眠り続けるのがいい。そう思って掛け布団にくるまろうとしたときだった。 夜のとばりを揺らす小さな足音。 室内の無個性な壁掛けは午後九時を知らせている。看護師の巡回にはまだ早い。普段なら同じ入院患者が散歩でもしている、と無視 したことだろう。けれど——今日はそう思うことができなかった。 なんとなくだが……この病室のドアを叩くのでは、そう思った。 それは予想だったのか、それとも期待だったのか。 「失礼するですよー?」 遠慮がちな申し出と同時に、焦らすようにドアが開き、 「——あれれ、起こしちゃったですか? 十分静かにしたつもりだったのですけど」 幼顔(おさながお)の小柄な担任——月詠小萌が訪れた。 一〇月中旬。上条当麻は毎度のごとく入院していた。 もはや常連とまで言える入院回数に担当の医師も院内の看護師も呆れるばかり。お見舞いの人間すら顔を覚えられている。 その日もそれなりのお見舞いがやってきて上条を笑い、けなし、噛みついていった。 「小萌先生にもお仕事があるのですよ。お見舞いに来たくても終わってからじゃ時間が遅くなっちゃいますからねー。今日は上条ちゃ んのカワイイ寝顔だけ見て帰ろうと思っていたのです」 小萌は慣れた手つきで林檎を剥いていく。 一緒に置いてあった蜜柑や葡萄、白桃などはことごとくインデックスに食べられてしまった。唯一残されたのが二つの林檎。ここま できたら残されたことを哀れにさえ思う。まぁ、これはインデックスのちょっとした反逆……いや、優しさの裏返しだと願っている。 「わざわざすみません」 「ふふっ、気にしなくていいのです。そんなにしおらしいのは上条ちゃん『らしくない』ですよ?」 滑らかに動くナイフをとめると、小萌は幼い顔でふんわりと笑いかけてきた。 『らしくない』 つらい言葉だ。特にいまの上条にとっては。 記憶喪失にもなんとか慣れ始めたから、こんなときは軽口でも言えばなんら問題ないことくらいわかる。それでも『記憶を失う前の 上条』と自分は違う。小萌の表現は『記憶を失った上条』と『記憶を失う前の上条』を暗に比較しているふうに聞こえてしまう。 自分らしさ……『記憶を失った上条』にとって、それはどのようなものだろう。 こんなことを考えると、どうも意識が自分の内側ばかりに向いてしまう。小萌といる現状ではそれは芳しくない。 「らしくないのは小萌先生ですよ。そんな子供っぽい顔してお料理スキル満点だなんて……上条さんはそんなギャップに屈しませんか らね、えぇ屈しませんとも!」 『子供っぽい』など、わざとちゃかすような発言をして話を濁す。 「な、なに言ってるのですか! こう見えても……いえ、小萌先生は見てわかるように家事全般は大得意なのですよ!?」 案の定つっかかってくれた。 とはいえ自分のした行動が、わざと好きな女の子をいじめる小学生くらいの男の子みたいで、無性に恥ずかしくなってくる。 そんな上条を知ってか知らずか……、 「まったく……上条ちゃんは仕方ないのです、えへへ」 年上とは思えない——いや、実際問題として小萌の容姿は小学生と言っても通用するだろうが——ような愛くるしい表情で、林檎を さっきの倍以上のペースで剥きだした。ダメな子ほど絶大な効果が発揮される世話焼きスキルである。 結局それから上条が小萌をなんとかして帰すまで、これでもかというほど介抱された。 小萌とのやりとりに疲れたのか、その夜はいつもより穏やかに眠れた気がした。 「上条ちゃんっ、病室に引きこもってばかりでは体に悪いのですよー! いまから小萌先生とお散歩に出かけるのです!!」 昨日より少し早い、まだ月が建造物で顔を隠している時間。小萌はそう宣言して車椅子を持ってきた。 その表情は昨夜に見た眩しいほどの笑顔である。 世話焼きはまだ続いていたわけだ。 「はぁー」 二の句を告げられなくなった上条は、溜息一つをお土産にして小萌には帰ってもらうことにした。 布団に潜り込もうとしたが驚異的なスピードで腕をつかまれ、現実逃避をこばまれる。 「……もう夜なんですけど?」 「むむっ、小萌先生だってそれくらいわかってます。昨日も言いましたけど、小萌先生には時間がないのです」 「あと数ヶ月で死んじゃう悲劇のヒロインみたいなこと言わないでください……」 あまりの傍若無人っぷりに呆れてしまう。 「えへへ……まぁ、冗談はここまでにしといて」 あろうことか小萌はそんなことを言い出した——が、夜の散歩が流れてしまうなら、との思いでツッコミたいのを我慢する。 「——上条ちゃんは温かい格好をするのですよ?」 「結局行くんかいっ!!」 相変わらず小萌の瞳は一昔前のLED光源のようにわざとらしいほどまぶしく輝いている。どうやってでも上条を外に連れ出したい ようだ。このまま拒み続ければ最終的には女の武器を使用するだろう。そうなったら上条に退路はない。 秋の涼しさは街中に広がっているとはいえ、今日は比較的暖かいほうだ。上条は寝間着としてジャージの下に長袖のTシャツといっ た格好だったので、少し見栄えは悪くなるが薄手のカーディガンでも羽織れば問題ない。 腹をくくる必要がありそうだった。 「……外出許可は取ってあるんですよね?」 「あ、その……上条ちゃんが本当に嫌だったら小萌先生も諦めますよ?」 そうは言っているが、自分がいまにも泣きそうなのをわかって言っているのだろうか? まぁ、きっと無自覚だろう。 上条としても、ここまでしてくれた小萌をそのまま帰すのは……まぁ、それなりに忍びない。 「いいですよ、散歩くらい。ちょっと準備するんで廊下で待っててもらえますか?」 「あの、平気です? やっぱりやめましょうか?」 「……小萌先生が誘ったんでしょ。それとも……生徒の生着替えでも見たいんですか? キャッ、小萌先生のエッチ!!」 それでも少しだけからかってみれば、 「なっ、なに言ってるんですか、上条ちゃん!!」 小萌は小さな両手で朱に染まった顔をなんとか隠しながら病室を飛び出していった。 なんというか……あんなことで真っ赤になるなんて本当にちっちゃい子みたいだ。きっと土御門や青髪ピアスにしたら、そこが小萌 の魅力なのだろう。上条には理解できない世界だ。 ……とはいえ、あの仕草には上条自身もグッとくるものがあったのも現実なのだが。 病院を後にすると、小萌はデートプランを練ってきたかのように迷いもなく歩を進めた。 「小萌先生、どこに向かってるんですか?」 素直にそう問いかける。 「特には決めてませんよ? 今日はお散歩なので着の身着のまま赴くままに、といった感じなのです。……それとも、上条ちゃんはど こか行きたいところがあるです?」 「特にはないですよ。それじゃ、小萌先生にまかせますね」 なんだかはぐらかされたような気もするが、変な勘ぐりはやめることにした。 もし上条に内緒で行きたいところがあるいのなら、それは小萌にとって本当に知られてはいけないのだろう。 自分の意思とは関係なく景色が動いていく。 ここのところ怪我ばかりの上条だったが車椅子に座ったのは初めてだった。 上条は自分が座っている車椅子を小萌が押すのは少々無理があるのでは、と松葉杖で行くことを勧めた。なにせ身長一三五センチの 体格では、ほぼ全自動の駆動輪付き車椅子でさえ扱いづらいはずだ。それなのに上条の言葉を一蹴して看護師から車椅子を略奪した。 よほど上条を連れて行きたいところがあるのかもしれない。単なるお節介という線もなくはないが……。 「えへへ、まかせてほしいのです!!」 肩越しに見た小萌は、左手を小さく握り締め、息巻いて頷いた。 この担任は教え子である上条にこんなにも無邪気に笑いかけてくる。そんなあどけない笑顔をじっくり見ていては小萌にも失礼かも しれないし、なにしろ上条自身が恥ずかしい。 車輪の行方を小萌に任せ、月明かりに照らされた科学の街を眺める。 「なんか……この辺りは静かですね」 「そうですねー、やっぱり病院が近いせいだと思うのですよ。……それに、どこかの誰かさんみたいに不良さんと追いかけっこするよ うな子もいないと思うのです。有り余ってる体力は勉強の方で発散してほしいですねー。上条ちゃんも、そう思ないです?」 「……ははは、そうとう元気な人ですね」 どこか乾いた声になってしまう。 「まったくもってその通りなのです。なんとですね、その子ったらなにかといろんなことに巻き込まれてたのです。不良さんと遊んで るのもその一つみたいで……女子中学生にもちょっかい出されたりするらしいのですよ? ほんと……とっても楽しそうなのです」 小萌の声は弾んでいて、明らかに上条をからかっていた。 「そ、そうですか?」 なんとか返事をしたが……心中穏やかではなかった。 「そうですよ。正直……学園都市は子供にとって住みよい場所だとは思えないのです。小さい頃から強度(レベル)による上下関係が 生まれるですし。傷ついてしまう子、傷つけてしまう子。どちらにとっても悲しいことです。……でも、その子は笑っていました。痛 いのは嫌だけど他の誰かが痛いのはもっと嫌、そんなことを言っていたのです」 いま、小萌の顔を見たら築いてきたものが崩れてしまう、そう思った。 記憶喪失以来、上条はそんなことを小萌に言った憶えはない。つまり小萌の話は『記憶を失う前の上条』のことだ。 小萌は上条が知っている教師の中でも、学園都市にいる大人の中でも、とてもとても素晴らしい人物だ。年端もいかない上条に対し てでも、まっすぐな気持ちと言葉をぶつけてくれる。 きっと頼ってしまう。どうしようもない想いを吐き出してしまう。 それだけは耐えなければいけなかった。 「——上条ちゃんは憶えていますか?」 この街の無機質な律動の音、その中で小萌の澄み切った声はやけに大きく聞こえた。 「初めて会った日のことを」 病院さほど遠くない小さな公園で小萌は足を止めた。 所々にある遊具たちは本日の業務を終えて故障したかのように動きを止めている。閉館後の遊園地も同じ雰囲気なのだろうか。外界 から切り離されたような、どこか違う時間を流れている感覚。 上条も彼らと同じ空間にいた。 縫いつけられたように車椅子に座っている。膝の上で絡ませていた両手が小刻みに震えだす。 「——は、初めてって『あの時』……です、か?」 『あの時』? それはいつだ!? 俺はなにを言っている! 小萌の不意打ちで思考は完全に止まっていた。しかし、身体は動くことをやめなかった。 知りもしない幻想を吐き散らしてまで小萌を事実から遠ざけようとする。 「……憶えてるです? 小萌先生は『あの時』、『あの場所』で出会えたのが『上条ちゃん』で本当によかったと思ってるですよ」 投げかけられる言葉が何度も胸をえぐる。 悲鳴を叫び続ける心とは裏腹に、不自然なほど滑らかに言葉が流れていく。 「なに言ってるんですか……俺だってそうですよ」 やめろ! これ以上『上条当麻』を演じるな! もう、この人だったらバレたっていいじゃ——、 上条の脳裏に焼きついて離れない、向日葵のような笑顔。 それを守らなければいけない。陰ることすらあってはならない。 「本当に……本当にそう思ってるです? 小萌先生に気を使ってるんじゃないです? お世辞とかじゃなくて……上条ちゃん……いえ、 『上条当麻』として言っていますか?」 いつの間にか小萌が目の前にいた。 上条が車椅子に座ってちょうど同じくらいの目線。心の奥まで覗き込むように、じっと上条を見つめている。 『能力』と『学力』で全てを評価される学園都市で小萌ほど学生に真摯な態度をとる大人はいないだろう。上条は記憶を失ってから の数ヶ月足らずで心からそう思っていた。 バカなクラスメイトにも、怪しげな外国人のシスターにも、無鉄砲な上条にも小萌自身ができる精一杯のことをしようとしてくれる。 表面的な印象だけで決め付けず、ちゃんと向き合ってくれる。 だからこそ、この人には誠実でありたい。 たとえ言えないことでも、向けられた想いだけは返したい。 なのに、 「——もちろん、です」 『上条当麻』はそう答えていた。 「そう、ですか……それならいいのです。えへへ、なんか変なこと聞いちゃいましたね」 やめてくれ……そんな笑顔で俺を見ないでくれ。俺はあなたに嘘をついたんだ。笑いかけてもらう資格なんてもうないんだ!! 小萌の笑顔は心から守りたいと思う少女にどことなく似ている。それがいま、嘘にまみれた上条に向けられている。 喉が枯れる。胸が痛い。心が軋む。 とり返しがつかないことをしてしまった思いが全身を支配して、まともなことを考えられない。 「正直、小萌先生は不安だったので——」 小萌の顔に一瞬だけ影が走った。しかし、それは本当に一瞬で次の瞬間にはまったく別の表情になっていた。 「ちょ、ちょっとどうしたのですか? 上条ちゃん、どうして泣いてるです!? あぁっ、やっぱり小萌先生のせいです!?」 急に慌てだした小萌がそうまくしたてる。 泣いている? 俺が? ……俺はまだこの人に迷惑をかけるのか!? 笑いかけなければ。 霞がかった意識の中でそう思った。 ふざけたことでも言わなければ。いつも通りの冗談だと、心配する必要などまったくないのだと。 そう確信できたのに——、 「あ、あぁ……」 『上条当麻』はことごとく裏切った。 「——うわぁあああああ!!」 堰(せき)を切ったかのように泣き叫んだ。 唇を噛んで嗚咽を殺そうともせず、目元を隠さずこぼれ落ちる涙で頬を汚し、恥ずかしげもなく子供のように泣きじゃくった。崩れ そうな心を支えるために小萌の服のすそを掴んだ。からっぽの心を誤魔化すために小萌の気配を感じていた。 溢れ出した『弱さ』を全身で受け止めて、小萌はそっと上条に寄り添った。 それから一〇分ほど上条は泣き続けた。 涙が静まると、とめどなく溢れていた感情も影を潜め、冷静な思考と身体の自由が戻ってきた。 やってしまった。 思った以上に追い詰められていたことには驚いたが、それを堪えきれないほどに自分が脆かったことを痛感した。記憶喪失を隠し通 せていたと油断していた。 横目でベンチの方に視線を向ける。小萌はなにを考えているかわからなかったが、一応は笑顔で天頂に上り始めた月を見上げている。 上条が泣いている間は、ぽつりぽつりと小さな言葉を紡いだ。 「小萌先生はずっとそばにいるですよ。だから……上条ちゃんは泣いてもいいのです」 なに一つ思い出を持っていないことを知った上で。 上条は感情の昂ぶるまま記憶喪失のことを吐露していた。 あの日より前の記憶がなにもないこと。それが決して戻ってこないこと。記憶喪失ということを知られてはいけないこと。それでも 自分のこと以外——インデックスや魔術に関することを言わなかったのは、インデックスを想ってか、それとも小萌を巻き込まないた めか。 上条の視線に気づいて小萌がおだやかに微笑む。 「……『あなた』は自分のことをどう思うです?」 普段の呼び方——『上条ちゃん』ではなく『あなた』だった。 「俺は……気づいたら真っ白な病室だった。なんかのマンガみたいな、信じられないことばっか説明された。全然実感がなかったけど、 インデックスが……あの女の子が俺の前で泣くのを見たら……すごく、辛かった。だから、あの子を泣かせちゃいけないって思った。 だから——俺は『上条当麻』になった」 その言葉は小萌に説明しているようで、上条自身に言い聞かせるようでもあった。 事実を追いかけ、感情を鮮明にしていく。 「最初は、ほんとわけがわかんなかった。『上条当麻』って人間が……台本がないまま舞台に立たされてる、っていう感じ……かもし れない。そういうの、よくわからないけど……でも大変だった」 目を背けていた想いに再び出会う。 「——自分のことを考えてる暇なんてなかった。あの子と『上条当麻』の知り合いたち……いろんなことが起きたけど、俺は見て見ぬ 振りなんてできなかったし……やっぱ、したくなかった。知識だけしかなかったけど身体は動いてくれた。バカみたいなことだけど、 どっかに残ってたのかも、って思う。……俺は少しずつ『上条当麻』に近づいた」 小萌はなにも言わない。 いきなり自分の生徒が泣きだしたら、記憶喪失だなんて言い出したら、事情を聴きたくなるはずなのに——、 ただ、そばにいてくれるだけ。 「だけど……近づいたのは外側だけだった」 目頭が熱を帯びていく。 「みんなが俺を『上条当麻』って認めると、その度に自分がわからなくなった。記憶がなくなっても『上条当麻』は『上条当麻』だと か、そんなこと言われなくてもわかってる。けど、でも……納得なんてできなかった! 俺の中で『上条当麻』はちゃんとした形にな っていくのに……俺自身は空っぽのまま」 揺らいだ世界に気づいて顔を隠すように俯く。もう、泣き顔は見せられない。 「結局……俺は誰、なんだよ」 情けなさと、苛立ちと、虚しさと——混然した感情に思わず開口する。 「……」 不意の気配。 かわいらしい小萌の革靴が視界にはってきた。 怖い。 視線をあげることが怖い。小萌の顔を見ることが怖い。『上条当麻』ではない——初対面の人間と向き合う小萌が怖い。 「『あなた』は……」 肩が震える。惨めな上条を嘲るように膝が笑いだす。 「『あなた』は『上条当麻』です。おバカさんで、どうしようもなくて……でも一生懸命で、ちっともめげない。小萌先生の大事な大 事な教え子です」 小萌は笑っていた。いや……『あの日』自分に向けられた笑顔のように……精一杯、笑おうとしていた。 「——っ、だからっ!!」 荒ぶる感情が声となって吐き出される。 小萌が放った言葉はどうしようもなく正しいのだろう。記憶喪失になったからといって異なる人物に成り代わることなどありはしな い。『記憶を失った上条』も『記憶を失う前の上条』も所詮は同一人物だ。 けれど……それは偽善だ。慰めにすらほど遠い。 「違います。そうじゃないのです」 頭(かぶり)を振って小萌は言った。 「どんな経緯で記憶喪失になったのか、小萌先生に詳しいことはわかりません。……でも『あなた』は……記憶を失ったときから、シ スターちゃんを守ろうと思ったときから……『あなた』は『上条当麻』になったのです」 温かい優しさが肩の震えを抑えていく。 「さっき『あなた』が言ったように、きっと……どこかに『上条当麻』が残っていたですよ。シスターちゃんに出会って、姫神ちゃん と過ごして、風斬ちゃんと仲良くなって、土御門ちゃんたちと笑って、吹寄ちゃんに怒られて……『あなた』の中の『上条当麻』はみ んなに触れて少しづつ大きくなったはずです」 ゆっくりと首に腕を回され抱きしめられた。 ちょっとタバコ臭い……でも陽だまりのような匂いが包み込んでくる。 「それはいままでの『上条当麻』じゃなくて……新しい、『あなた』が成長して創りあげた『上条当麻』なのですよ。以前と同じ必要 なんてありません。なりきる意味なんてないのです。だって……」 小萌の腕に力が入った。 「だって『あなた』は、いままでの『上条当麻』よりずっと素敵な『上条当麻』なのですから」 そんなの詭弁だと思った。この場凌ぎの言葉遊びだと罵りたかった。 だけど——、 その台詞は心の奥底に突き刺さって決して引き抜けないほどにめり込んでいく。 「小萌……せん、せい……」 たとえ詭弁でも、たとえ言葉遊びでも……、 「——ありが、とう」 送られた言葉はひどく嘘っぽくて——そして、嘘みたいに温かかった。 上条は声を押し殺して再び、泣いた。 上条が落ち着いてから、二人は公園を背に帰路を歩む。 車椅子に揺られながら上条は気になっていたことを尋ねる。 「小萌先生は……俺が記憶喪失だって、気づいてたんですか? それであの公園に行ったんですか?」 今日、小萌はまっすぐにあの公園に向かっていた。上条と小萌が出会ったのが『あの場所』というのなら記憶喪失のことを知ってい て連れ出したとしか思えない。 しかし——、 「あは……あはははは……か、上条ちゃん、それはですねー」 小萌の反応は妙に落ち着きがない。 なんというか……教師にいたずらがばれた小学生のようだ。 「小萌先生?」 「お、怒らないで聞いてくださいねっ?」 「……話の内容によります」 小萌の表情はわからないが、ぐっと息を飲んだことがわかった。どうにも言いづらいことらしい。 こほん、と喉を整えて小萌は話を切り出した。 「その……最近、上条ちゃんの様子がちょっと変だったので気になっていたのです。少し元気がないようい見えたので、まずはお見舞 いに行ったのですけど……案の定、上条ちゃんに違和感を覚えてしまったのですよー。それでですね……」 振り向いて視線を合わせる。 「——カマ、かけたんですか?」 一秒もしないで顔をそむけた小萌。少し頬がひくついている。かと思えば鼻先が触れ合いそうなほど顔を寄せてきた。 「ち、違うのですよー! 上条ちゃんのことなので、小萌先生がなにを聞いても『大丈夫』とかそんなこと言って、絶対はぐらかすと 思ったのです。なので、ちょっとだけ……ちょっとですよ!? その、上条ちゃんをからかっちゃおうと思いまして……」 「……から、かう?」 予想外の告白だった。 上条としては最初から小萌が記憶喪失のことを知っていたと思っていた。だから上条の昔のことを話し出したと思っていたのに……。 からかおうとした? 「どうせ上条ちゃんったら小萌先生と会ったときのことなんか忘れてると思ったので、わざとその話をして焦らせてやろうと思ってた のです。そしたら……その、上条ちゃんがいきなり泣き出して——」 「ちょ、ちょっと待ってください!!」 ということはまさか……、 「最初から記憶喪失って知ってたんじゃ……」 「そ、そんなことわかるわけないじゃないですか! 上条ちゃんから聞いて小萌先生だってビックリしてるですよ!?」 まさか……思いっきり墓穴を掘ったのか? 盛大な脱力感に襲われ、なにもかも投げ出したくなる。 しかし、その前にもう一つ聞かなければいけないことが増えた。 「じゃ、じゃあ……俺と小萌先生が初めて会った場所って……」 一瞬の間。その後、不安に覆われていた顔を眩しい笑顔に塗り替えた。 「もちろん、あの公園じゃないですよー」 「……うだー、マジかよ」 もはや文句を言うだけの気力すらない。というか、もとから文句を言うつもりなど全くない。 深く身体を車椅子に預け、黒塗りの天井を見上げる。雲一つない空で月は煌々(こうこう)と輝き、夜の色合いを深めていく。 今日も静かな夜になるだろう。 けれど、安らかな眠りが待っている。そう確信できる。 もう自分はいままでの『上条当麻』とは、仮初めの存在とは違うのだから。 穏やかな夜。 視界の隅にはさっきまで泣いていたかわいい教え子の黒髪。 (えへへ、上条ちゃんったら、まだまだ子供なのですよー) ナデナデとかヨシヨシとかイイ子イイ子とか、大好きな教え子に色々したい感情を必死に抑える。こうして一緒に歩いていると自然 と気分が高鳴っていった。 それでも……、 どうしても表情が曇っている気がする。 (記憶喪失、ですか……) なんとか笑顔を作ってみるが、やはり表情筋が固いようだ。たった数十分ではあの衝撃からは立ち直れない。 本当に側頭部を鈍器で殴られたような鈍い衝撃だった。 クラスの中でムードメイカーとして、まとめ役の一人として振舞う彼を知っている。 自分の信念を曲げずに、誰かのために身を削っている彼を知っている。 どんなにつらくても決して諦めない彼を知っている。 そして記憶を失っても彼は彼のまま、誰にも迷惑をかけず全てを一人で抱え込んでいた。 (やっぱり……『あの時』となにも変わっていないのですね) 一つだけ嘘をついていた。 あの公園。 いまの高校に赴任して数日足らずの月詠小萌と、学園都市に来たばかりの上条当麻。 そこは本当に二人が出逢った場所だった。 (ごめんなさい、上条ちゃん……でも、これだけは言えなかったです) それは二人だけの思い出。 『上条当麻』にさえ踏み入ることを許さない月詠小萌の大切な記憶。 なにかあればいつも思い出していた。 (いつのまにかお別れしちゃったのですね……本当にずるい子です、本当に) けれど、その思い出も深く深くしまわなければいけない。 忘れることなどできないから……一つの想いに添えられた言葉とともに、二度と開くことのない宝石箱の中へ。 (——さようなら『上条当麻』君) 秋の夜風が慰めるように優しく頬を撫でていく。 月詠小萌は『上条当麻』に気づかれないように一雫だけ涙を流した。 たった一雫だけ。
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7スレ目ログ ____ ________________ 7-10 かぺら(5-906) Daily Life 11 番外編 un-dai"L"y life 7-29 コッカラ(7-028) 「とある科学の超電磁砲」が終わって一週間経ちました。 7-36 おちゃちゃ(7-035) ビリデレメモリアル 1 第一部 7-48 コタケン(7-047) 名前を呼んで 7-66 上琴患者A(7-065) とあるファミレスで 7-86 7-085 小ネタ 御坂美琴の好感度を上げてみた? 1 7-97 おちゃちゃ(7-035) ビリデレメモリアル 2 第二部 7-111 かぺら(5-906) Daily Life 12 降誕祭(クリスマス) 7-121 ぴんた(6-379) とある2人の春休み 1 7-143 キラ(4-879) 恋する少年の酔っ払い 7-159 7-158 小ネタ 愛の巣 part7 7-163 20気圧(7-162) とある少女のマフラー計画 1 7-207 キラ(4-879) 小ネタ 勘違いと恥ずかしさ 7-214 ぴんた(6-379) とある2人の春休み 2 7-241 トニ(7-241) 小ネタ 替え歌 7-246 ほのラブ同盟(7-245) とある少女の記念写真 7-261 かぺら(5-906) Daily Life 13 降誕祭(クリスマス) 7-273 auau(7-270) とある未来の・・・ 1 プロローグ 7-281 ION(7-279) 上条さんが…ちっちゃくなりました。 1 1日目 7-290 ION(7-279) 上条さんが…ちっちゃくなりました。 2 1日目 7-298 auau(7-270) とある未来の・・・ 2 1.訪問者 7-307 ION(7-279) 上条さんが…ちっちゃくなりました。 3 2日目 7-321 ION(7-279) 上条さんが…ちっちゃくなりました。 4 3日目 7-330 D2 ◆6Rr9SkbdCs ロシアから愛をこめて A_certain_preview_"INDEX". 7-348 ほのラブ同盟(7-245) とある花見の招待状 7-357 かぺら(5-906) 口は幸せのもと? 7-365 auau(7-270) とある未来の・・・ 3 1.訪問者 7-373 KAMISAKA(7-372) memory 1 プロローグ 7-378 20気圧(7-162) とある少女のマフラー計画 2 7-390 ∀(2-230) バイト生活 7 7日目 7-398 ∀(2-230) バイト生活 8 おまけ 7-411 ほのラブ同盟(7-245) とある上条のらいあーげーむ 7-418 KAMISAKA(7-372) memory 2 前半 7-421 キラ(4-879) 4月1日と4月2日 7-436 おちゃちゃ(7-035) ビリデレメモリアル 3 第三部 7-449 蒼(4-816) side by side 12 ―分岐点― 7-460 KAMISAKA(7-372) memory 3 後半 7-467 ION(7-279) 夢で逢えたら。 7-475 KAMISAKA(7-372) memory 4 後日談 7-480 D2 ◆6Rr9SkbdCs Equinox 18 共犯者 Let s_get_ready_to_rhumble. 7-489 D2 ◆6Rr9SkbdCs Equinox 18 共犯者 Let s_get_ready_to_rhumble. 7-501 ∀(2-230) 小ネタ みかん 7-507 キラ(4-879) selfish 7-519 上琴患者A(7-065) 例えばこんな三人の関係 1 流星に願う妹達の想い 7-531 3-351 小ネタ 縦読みせよ! 7-534 ぴんた(6-379) 初恋同士の恋の詩 7-545 KAMISAKA(7-372) memory 5 一端覧祭の思い出 7-555 コウ(7-554) 小ネタ 防御結界 7-559 20気圧(7-162) とある少女のマフラー計画 3 7-571 上琴患者A(7-065) 例えばこんな三人の関係 2 流星に願う妹達の想い 7-600 ぴんた(6-379) 純真無垢な上条さん 1 7-611 かぺら(5-906) Daily Life 14 結婚生活(カミジョウミコト) 7-619 キラ(4-879) とある超電磁砲たちと幻想殺し 7-634 つばさ(4-151) どこにでもあるハッピーエンド 3 たった一人の 7-657 ♪♪(7-656) サプライズ 7-669 ∀(2-230) 小ネタ 黒子→美琴×上条の日常 1 7-678 3-351 小ネタ 黒子→美琴×上条の日常 2 7-684 ほのラブ同盟(7-245) とある少女のういういdays 1 7-690 ぴんた(6-379) 純真無垢な上条さん 2 7-702 ♪♪(7-656) カミヤンを探せ! 7-714 おちゃちゃ(7-035) とある河川敷での一コマ 7-723 3-351 小ネタ 体温 7-740 auau(7-270) とある未来の・・・ 4 2.初めて 7-759 キラ(4-879) 三日間の幻影の少女 7-774 ほのラブ同盟(7-245) とある少女のういういdays 2 7-788 20気圧(7-162) とある少女のマフラー計画 4 7-798 上琴患者A(7-065) 小ネタ とある帰り道の一幕 7-808 ぴんた(6-379) 純真無垢な上条さん 3 7-815 ぴんた(6-379) 純真無垢な上条さん 3 【後日談】 7-845 かぺら(5-906) ふいうち 7-859 7-858 インデックスVS美琴 7-873 20気圧(7-162) 猫も好きだけど… 7-883 D2 ◆6Rr9SkbdCs Tubthumper 7-899 キラ(4-879) fortissimo 7 とある恋人の夏物語 7-912 ぴんた(6-379) 左手デート 1 7-920 ほのラブ同盟(7-245) とある少女のういういdays 3 7-945 7-944 上条勢力集う 7-959 ぴんた(6-379) 左手デート 2 7-978 7-085 小ネタ 御坂美琴の好感度を上げてみた? 2 7-982 かぺら(5-906) 小ネタ おいかけっこ 7-999 小ネタ いざ part8!! ▲
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある不幸な都市伝説 1日目 『少年』は今スーパーにいた。 お目当てはお一人様1パックの卵、タイムセールで安くなる豚バラ肉、使用頻度の高いもやしもきれかけていたはずだ。 余裕があれば本日4割引の冷凍食品コーナーも見てみよう。あとソーメンはもういらない。 そんな予定を立てていたのだが、予定は予定、そううまくいかないときもある。 卵もバラ肉も売り切れ。冷凍食品もろくな物は残っていない。もやしは買えるがそれだけだ。あとソーメンはもういらない。 少年は補習で遅くなっていた。いや補習はいつものことだが、 財布をなくし、ケータイを落とし、明日提出しなければならない宿題のプリントの束もカバンから消えていた。 それらを探し出すのにえらい時間をくってしまったのである。 結果的に教室の自分の机の中で、それらはすべて見つかったのだが、いろんな意味で泣けてきた。男だって泣きたい時がある。 (どーすっかなー…今からじゃメシ作る時間もないしな…) 少年は自分の寮にペット(?)を一匹と一人飼っている。三毛と白だ。 三毛のほうはおとなしいが、問題は白のほうだ。ハラペコがデフォルトな為、こんな時間に帰ったら 「とうまーとうまーおなかがすいたんだよ!ごはんはまだなのかな! はやく食べたいんだよ!ごはん!ごはん!ごはん!ごはん!」 という珍しい鳴き方をしてくる。 だったらお前が作れよ…と思う者も多いだろう。しかしそれは家主である少年によって禁止されている。 実は以前、彼女はレンジを爆発させたことがある。 本人はぼたんを押したらこうなったと泣きながら主張したが、家庭用電化製品に自爆スイッチは搭載されていない。 話し合いの結果、たまたま押した場所が爆発するツボだった。と言う結論に至る。 これは「爆砕点穴の悲劇」として語り継がれ、彼女には台所使用禁止法案が制定されたのである。 (仕方ない。ちょっと高いけど弁当でも買うか。俺もプリントやんなきゃだしな。 …ま、一番安いのでいいよな。) だが一番安いシャケ弁も売り切れている。店員に聞くとぼさぼさの茶髪の男が全て買い占めて言ったらしい。 どんだけ食うねん!と、顔も名前も分からないその男にツッコミを入れる。 許してやってくれ。その男もシャケ弁を買ってこなければ、ブ・チ・コ・ロ・されるという極めて特殊な状況にあるのだ。 ちなみにその男も『不幸な王子様』と肩を並べる、3種類の都市伝説の1つ『シャケ弁ハンター』と呼ばれているのだが、 それはまた別のお話。 仕方なく少年はかなりお高めの、チキン南蛮SP(スペシャル)弁当と猫缶をひとつずつ。 自分用におにぎり2個(おかかとツナマヨ)を買い、スーパーを後にした。 (はー…結局何も聞けなかったなー…) 佐天はとぼとぼ歩きながら今日のことを思い出していた。 白井から突如投下された爆弾発言。『逢引』と『ペア契約』。 あの後も何度も御坂から聞きだそうとしたのだが、浅いところから攻めようとすると、はぐらかされる。 かと言って、深いところに踏み込もうとすると罠カード「漏電」が発動する。 このカードは、相手プレイヤーに直接雷属性のダメージを与え、LPを0にするという恐ろしい効果を持つ。 当然、公式大会では禁止されている。 そんなこんなで時間が過ぎ、最後は 「アー!もうこんな時間ダワー!黒子!早く帰らないと寮監に怒られるわよ! さー帰ろう!今すぐ帰ろう!」 と、半ば強引に解散させられ【にげられ】た。 (こーなったら上条さんを連れて来るしかないよね。やっぱり。 ていうかあたしも会って見たいし。) もはや「都市伝説の人」に会いたいから、「御坂の好きな人」に会いたいへ佐天の思考はチェンジしている。 (よし!明日上条さんの高校に言ってみよう!初春に聞けば場所も分かるし!) ひょっとしてこれはストーカーなのかな?と一瞬頭によぎったが、 御坂さんの恋の行方【こんなおもしろいこと】ほっとけるかー!と思い直した。 この子は本当にいつでもテンションが高いなぁ。 ちょっとコンビニでも寄ろうかなと思った瞬間 「きみひとり~?あぶないよ~こんな時間に~俺たちが家まで送ってあげるよ~。」 声をかけられた。 相手は3人組の男性達【スキルアウト】。明らかにこの人たちと一緒のほうが危ないといった風貌だ。 1人目はくすんだ金髪で両耳と唇にピアス。声をかけてきた男だ。 2人目は左腕と左頬にタトゥーを彫ったスキンヘッドの男。 3人目は鉄下駄を履き、学ランを着て、葉っぱをくわえた大男。 …3人目だけなんか違くね?などといっている場合ではない。 (ヤバイヤバイヤバイヤバイ!!) LEVEL0の中学1年生佐天に、ヤンキーふたりと番長ひとりをたおすスキルはない。 何回やっても何回やっても、E缶だけは最後まで取っておいても倒せないだろう。 どうすればいいかアワアワしていると、 「あーいたいた土御門。悪いな、買い物してて遅くなっちまった。」 ツンツン頭の少年が乱入してきたのである。 ツチミカドとはどうやら佐天にたいしていった名前のようだ。 なるほど、偽名を使えばノートに名前を書き込まれても死ぬことはない。 「それじゃーツレがお騒がせしましたー…」 そういいながら佐天【ツチミカド】の腕をつかむ少年。 佐天はその少年の顔に見覚えがあった。初春のパソコンで見たはずだ。 御坂から話を聞こうとしたはずだ。明日会いに行こうとしてたはずだ。 LEVEL0なのに電撃が効かず、「不幸だぁー!」という口癖を持つ。 戦闘力は4か5程度。ヤムチャ位しか倒せない。 都市伝説『不幸な王子様』にして、御坂美琴【しんゆう】の想い人。 上条当麻がそこにいた。 上条【じゃまなやつ】の乱入にスキルアウトの3人の目つきが変わる。 「なんだよお前~その子は俺たちに用があるんだぜ~?」 「邪魔すんじゃねぇぞゴルァ!殺されてぇのかゴルァ!」 「おなごじゃい…本物のおなごじゃい!逃がしてたまるかい!!」 3人目はちょっとだまれ。あと偽者のおなごって何だ。 「いやいやいや。だからコイツ俺の友達なんですって。な!土御門?」 「ええ!そりゃあもう!このツチミカドはあなたの友達ですよ。ハイ!」 空気が読めてノリもいい子で助かった。と、上条は思った。 以前、とあるビリビリ中学生を助けたようとしたときはえらい目にあったものである。 もっとも、そのときの記憶は『今』の上条にはないのだが… ちなみに佐天は頭をフル回転させ、この状況をどうするか、ではなく下の名前を考えていた。 (よし!ツチミカド・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールにしよう!) 何でこんな余裕あるの?そんな名前の日本人がいるか。本当に覚えられるのかお前。随分すごい魔法が使えるんでしょうね! …いかんツッコミきれない。ノリが良すぎるのもどうかと思う。 じゃーそーゆーことで…とその場を逃げようとする上条だったが、突然 「うおーーー!!逃がさん!!おなご!!逃がさんどーーーー!!!!」 と3人目がブチ切れた。 かぁ!気持ち悪ぃ!やだお前ぇ! ついでに両手も燃えている。発火能力者。LEVELも3はありそうだ。 ぬうぇい!という掛け声とともに、両手の炎は上条めがけて投げられた。 直撃した!…はずだった。が、上条は無傷だった。傷どころか服も燃えていない。 ただ右手だけを前に伸ばして。 その場にいた上条以外の人間には何が起こったのかわからない。 スキルアウトの3人はどんな能力だ?と動揺し、佐天は電撃だけでなく炎も効かないという事に驚いていた。 彼の右手には幻想殺しという力が宿っている。 それが異能の力ならば、魔術だろうと超能力だろうと波動拳だろうと打ち消せる能力。 チャンス!周りはキョトンとしている。 「おい!走るぞ!」 上条はツチミカド・フランソ…え~と…ナン・ト・カカン・トカの腕を右手でつかみ走り出した。 ちなみに左手には、学生カバンとスーパーの袋がしっかりぶら下がっている。 少しして、3人が追いかけてきた。 かわいい女の子に 「待って!私を置いていかないで!」 なんて言われたら待つだろうが、 誰が好きこのんで、イカつい野郎×3に 「待てやゴルァー」 といわれて待つか。 こちとら逃げ足には自信がある。 こっちは女の子【ハンデ】を連れてはいるが、こんな不幸【じょうきょう】良くあることだ。 スーパーの袋を持ち、必死の形相で逃げる上条。 その姿はあまりにも、王子様というイメージとはかけ離れていた。 普通の高校生が、普通の中学生の腕をつかんで逃げている。 そんな今の自分たちの姿に、佐天はクスッと笑った。 どうやら撒いたらしい。 上条は本当に逃げ慣れているらしく、この辺りの地理にはくわしいようだ。 日曜7時の旅番組でしか通らないような、路地裏や狭い道をぬけて、今は開けた場所にいる。 サイコロもさぞ転がしやすいだろう。 「ここまで来りゃ平気だろ。あんた怪我とかは大丈夫か?」 「あ!おかげさまであたしはまったく何の問題もないです。」 「そっか。気をつけろよ?この辺にはあーゆーのがいるから。」 「えへへ…すみません。」 「で?おまえンちってどっち?」 ハイ? 「いやいやいや!違いますよ!?ワタクシは紳士であって 先ほどのようなことが起こらないようにボディーガードなどをやろうとした次第でして 決して送りオオカミなどというゲスい真似など微塵も…」 「…プッ!…あっはっはっはっは!!」 上条の必死すぎる弁解に佐天はとうとうふきだした。 上条も分かってもらえたかと、ホッとした。 「じゃーあたしの寮までお願いします。歩きながらお話しましょうよ!『上条さん』!」 「あー何だ御坂達から聞いたのか俺の名前…」 上条はいきなり名前を呼ばれてビクッとした。もしかしたら『前の俺』の知り合いか!?と、思ったようだ。 だが話を聞けば、この佐天涙子という女の子は御坂や白井の共通の友人のようだ。 「上条さんもすごいですねその右手!どんな能力も効かないなんてムテキじゃないですか!」 「いや…そこまで便利じゃないんだけどな?あ…と、ここか?佐天の寮。」 「はい!今日は本当に色々ありがとうございました!」 「いやいいって。佐天こそ気をつけろよ。じゃあな。」 「あ!待ってください!明日お暇ですか!?」 「ん~どうだろ…補習がなければ多分…」 「だったら明日ここのファミレスに来てください!」 そういって佐天は、今日いたファミレスのチラシをカバンから出す。 何で?と、言いかけた上条に佐天はすかさず 「今日のお礼をさせてください!」 悪いとは思ったが、せっかくの好意を断るのもどうかと思い、明日会う約束をして上条は帰っていった。 紆余曲折あったが、結果的には「明日上条と会う」という当初の目的は達成された。 「よーし!明日は御坂さんも呼んで根掘り葉掘り聞きまくるぞー! そんでふたりをいい感じにしてー………?」 と、意気込んだところで佐天は胸がチクリと痛むのを感じた。 だが、風邪でもひいたかな?と、あまり深く考えずに、そのままカバンからケータイを取り出した。 「おっす!初春?明日なんだけどさー……」 都市伝説 『不幸な王子様』 どこからともなく現れて、困っている女の子を助けてくれる。 そして助けられた女の子は高い確率でその人のことを 好きになってしまう。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある不幸な都市伝説
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ソーマ&アリサ ステータス スキル XPスキル AUTOスキル 攻撃 単体攻撃 複数攻撃 サポートアタック ステータス 移動距離:6 射程距離:2 Lv HP ATK DEF TEC SPD 備考 5 4636 139 137 108 113 正式参戦 10 5663 167 165 113 118 20 7610 218 217 124 129 30 9410 269 266 134 140 40 11064 315 311 144 151 50 12574 356 352 155 163 習得Lv 名前 分類 8 チャージクラッシュ XPスキル 14 連続斬り&インパルスエッジ 通常技 19 リンクエイド強化 AUTOスキル 23 アドバンスド・ガード XPスキル 27 捕喰&コールレイン 複数技 32 コンボ捕喰&ホールドトラップ 通常技 37 受け渡し弾 XPスキル 44 部隊長の素質 AUTOスキル スキル XPスキル スキル名 効果 消費XP 回復弾 HP30%回復(味方1人) 30% チャージクラッシュ 通常技の射程+1 15% アドバンスド・ガード DEF15%アップ 25% 受け渡し弾 初段クリティカル(味方1人) 15% AUTOスキル スキル名 効果 発動条件 発動確率 リンクエイド強化 救援時に全回復で復帰 無条件 100% 部隊長の素質 サポートアタック回数+1 無条件 50% 攻撃 単体攻撃 コマンド 技名 威力 HIT数 XP増加 BLOCK削り 追加効果 備考 A チャージクラッシュ&連続斬り A 9 4.0% 34 気絶 ←A ジャンプ斬り&スライディング C 10 5.3% 28 - Crt+ →A 捕喰&ジャンプ回転斬り C 10 8.0% 38 - ↓A 連続斬り&インパルスエッジ A 10 2.0% 30 - Crt+ ↑A コンボ捕喰&ホールドトラップ B 10 9.0% 24 崩し Crt+ Y あの雲を越えて S 22 - - 気絶 複数攻撃 コマンド 技名 威力 HIT数 範囲 対象 追加効果 備考 START 捕喰&コールレイン C 10 4 4体 気絶 サポートアタック コマンド 技名 威力 HIT数 XP増加 BLOCK削り 追加効果 備考 R チャージクラッシュ&神速連撃 C 19 9.2% 34 毒
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【初出】 SSスレPart3 612 〜〜♪〜〜♪〜〜〜 禁書目録本体から切り離された自動防御プログラムが暴走する。 立ち向かうのは、わたしたち学園都市チームと、そして、そして……!? 禁書目録事件の、これがきっと、最終決戦! 次回、魔砲少女リリカル・カナミンA`s 第12話 「夜の終わり、旅の終わり」 長い夜も、もう終わるから……。 CAST(激しく個人的見解含む) 一方通行…………嘱託魔道士。『白い悪魔』 御坂美琴…………嘱託魔道士。『黒の一番』 インデックス…………魔道書の主。 白井黒子…………守護獣。サポート。 結標淡希…………図書館司書。サポート。 ステイル…………執務官。 初春飾利…………管制官。 ローラ(小萌先生?)…………提督。未亡人。一児の母。 神裂火織…………守護騎士。剣の騎士。 オルソラ…………守護騎士。湖の騎士。 アニェーゼ…………守護騎士。鉄槌の騎士。 シェリー…………守護騎士。盾の守護獣。サポート。 風斬氷華…………管理プログラム。 アウレオルス…………禁書目録解決の為に裏で画策してた提督。
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【初出】 禁書SS自作スレ>>658-660 ◇ ◇ 学園都市二大祭事の一つ、全学合同大規模文化祭、一端覧祭。 開催をいよいよ明日に控え、学園都市の全学校は授業を取りやめにして準備を行っている。 大覇星祭のように他校と点数を競いあうといったことはないが、店の売り上げや展示の客入りが多ければ多いほど今後のステイタスになる。そのため学生達の気合の入れようはすさまじかった。 そんな祭の直前に特有の緊張感に包まれた、ここ第七学区のとある場所にこじんまりとした喫茶店がある。 小喫茶「かるでら」。 「開店」の札がやや見えにくい場所にあり、時には喫茶店だと気付かれずに通り過ぎられてしまうこともあるような地味な店だ。しかし格安で質の高いコーヒーや、名物のパイに惚れ込んで足繁く通っている客も少なからずいる。いわゆる隠れた名店という奴だった。 ただし今日に限っては近所の学校が会場校に選ばれたらしく、その準備に追われているためか昼を過ぎても客足はほとんどない。今店内にいるのはマスターとバイトのウェイター(学生。一見爽やかな好青年だがこの時間にバイトなんかしているあたりある意味で将来有望)を除けば午前中からずっといる男性客が一人だけだった。 窓際のテーブル席に陣取って、コーヒー一杯でねばり続けているその男は、一見したところでは学生にも教師にも見えない。この街でそれ以外の人種というと研究者くらいしかいないのだが、それこそ一番似合っていない。 恐らく二十代中盤。学生ではありえない年齢だが、教師にしては纏う雰囲気が剣呑に過ぎる。服装はどこにでもあるような秋物のシャツとズボンだが、サイズがだぼだぼだ。またネックレスには小型携帯扇風機を四つもぶら下げている上に、髪はジェルか染料で固められて毬栗(いがぐり)みたいになっている。スニーカーの靴紐はなぜか1メートルほども垂らされており、廊下側にまで出てきていた。誤って踏んでも気付かれない長さだ、とマスターとウェイターは囁きあう。 だが、“感心はその程度で終わってしまう”。 この街で教師にも学生にも研究者にも見えない人物がいれば、それは立派な不審人物だ。極めつけに怪しげな長袋(槍でも入ってそうな長さだ)を携えているとなれば、善良な一般市民はすぐさま警備員(アンチスキル)に通報するべきだろう。 しかし、マスターもウェイターも全くそんなつもりになれず、「まあそんな人もたまにはいるかな」ですませてしまう。怪しさを打ち消すほど存在感が薄い男だった。 ――正確には意識して存在感を薄くしていたのだが。完全に消し去るのではなく、最低限度に知覚させることで、駅ですれ違う人の顔のような「その他大勢」に混じることで他者に記憶させないようにする技術。 戦闘の中よりも社会の中で効果を発揮する技である。そして男はそれを呼吸のように自然に行っている。 謎の、そしてその謎を感じさせない男はただソファに深く腰掛けて、パラパラと一端覧祭のパンフレットをめくっていた。 彼が持つのは学園都市内の全会場校を網羅した完全版ではなく、第七学区に限定された縮小版である。 それを気だるげな眼差しで眺めながら、男は誰かを、あるいは何かを待っているようだった。 チリリリリーン……という涼やかな音が鳴った。 音の出所は店の入り口にかけられた小さな鈴だ。こんな日に喫茶店を訪れる酔狂な客が他にもいたのか、と図らずとも店内の人間の感想が一致する。 控えめにドアを開けて入ってきた客は、またも男性で、またも異様だった。 身に着けているスーツは葬式帰りかと思えるほどの黒尽くめ。更に見上げるほどの巨躯であった。一人目の客も長身の部類に入るが、明らかにこの男の方が体格がいい。年齢はそういくつも違わないだろう。糸のように細められた目はどこを見ているのか定かではないが、かもし出す雰囲気は不思議と落ち着きを感じさせる。右手には大きめのボストンバッグを持っていた。 早速暇を持て余していたウェイターが応対する。 「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」 「いえ、待ち合わせをしていまして」 二人目の客はちらり、と窓際の男を見る。最も瞳が見えないほどに目を細めたままなので、あくまでそれらしい挙動をしたということだが。 ウェイターは、おかしな話もあるものだ、と思いながら黒尽くめの男を席まで案内する。 一人目の客はパンフレットを閉じ、テーブルを挟んで向かいに座る黒尽くめの男をしげしげと眺めた。 ウェイターがカウンターに戻ったのを確認してから、長袋の男は口を開く。 その口調は待ち合わせをしていた仲にしては、刺々しい。 「なあお兄ちゃん。俺の記憶が正しけりゃ、俺はお前さんの顔も見たことがないんだが」 「奇遇だな。私もだ」 拍子抜けするくらい正直な答えだった。長袋の男の眉間に皺がよる。 「じゃあ何か。男相手のナンパか。そいつぁお断りなのよな」 「これまた奇遇だ。私もそのような趣味は持ち合わせていない」 「…………、ああ分かった。喧嘩売りに来たのかお前さん」 長袋の男の目つきがさらに険しくなる。気の弱い者なら失禁しかねないほどの殺気が真正面に放たれる。 しかし黒尽くめの男はわずかに怯みもせずに、細められた――長袋の男はここで初めて気付いたが、彼は目を細めているのではなく完全に閉じていた――目を向けて、 「その通りだ」 と答えた。 「単刀直入に尋ねる。ここ数日、学園都市第七学区でこそこそとよからぬ動きをしているのは貴様だな?」 「………………………………、」 「何をたくらんでいるのか知らないが、不愉快だ。即刻消え失せてもらおうか」 断言。ファーストコンタクトが最後通告とは理不尽にも程がある。が、黒尽くめの男の表情にはいささかの冗談も含まれていなかった。 「……、」 長袋の男は沈黙し、観察し、熟考し、 「はぁ~~」 嘆息した。 この上なく気だるげに、長袋の男は言う。 「お兄ちゃん。俺だってまあ、あんまり褒められたことしてるわけじゃないって自覚くらいあるのよ。でもそれを他人にどうこう言われるのはまた別の問題な訳でな。第一、“こそこそ何かやってるのはお互い様だろうに”。折角これまで見逃して来てやったのを自分から喧嘩降りかけて無駄にするかね普通」 「――ほう」 黒尽くめの男の手が横に置いたボストンバッグの口にかかる。ほぼ同時に長袋の口紐もほどかれていたが。 「警告だけで済ませてやってもいいと思っていたが……そういう訳にもいかなくなった」 「俺はそれでも構わんのだがね。でもお前さんが俺やこの街にいらん迷惑かけようって言うのなら、放ってはおけんなあ」 「は。よく言う。どちらのことだというのだそれは」 そこで会話が途切れた。 瞬間、戦場が発生する。 戦闘を望む者が複数居れば、どこであろうとそこは戦場になるのだ―― 「失礼します」 と、動きだす直前に横からウェイターの声が割って入った。いつの間にかカウンターから戻ってきていたのだろう、地面と平行にした掌の上に色々な物が載せられたお盆がある。 「ご注文はお決まりでしょうか」 爽やかな営業スマイルを向けられて、黒尽くめの男は一瞬反応に詰まる。 「あ、い、いえ。何かおすすめのようなものはありますか?」 寿司屋じゃねぇんだから、と長袋の男が小声で言うのを閉じた目で牽制。ついでに一杯飲んだら表出てヤルぞこら、とも伝えておく。 長袋の男は可笑しげに口元を吊り上げて笑った。了承の意味を込めて。 ウェイターはそんなやり取りが行われているとは露知らず、変わらぬ営業スマイルで、 「そうですね。本日のおすすめはパンプキンパイとシナモンティーでしょうか。珍しい薔薇の形をした角砂糖もございます。さらには」 お盆から水の入ったコップ、おしぼり、黒い石のナイフを順に手にとって、 「魔術師の方限定で、全身をバラバラにするサービスも行っております」 直後。 窓から注ぐ遠い星の光を集めて、物質分解の魔術が発動した。 部品(パーツ)に分解され崩れ落ちるテーブルセット。 それに巻き込まれる前にそれぞれ逆方向へ大きく飛びのいた二人の男は、床に着地するなり全く同時にこう叫んだ。 「「何者だ!」」 瓦礫の向こう。 爽やかウェイター――その皮を被っていた少年は石のナイフを手の中で幾度か回転させると、 「何者って、貴方達に言われる筋合いは無いとおもいますが。それにしてもおかしな話もあったものです。まさかこんな何の変哲もない店に魔術師が“三人”も集まるなんて」 魔術師。 その言葉に今さらながら男達の背筋が冷える。 科学至上の学園都市の正逆に位置する世界の住人。それが魔術師だ。 この少年“も”そうだというのか。 だが、と長袋の男は恐怖と共に戦慄する。数時間同じ店の中に居たにも関わらず、互いの素性に自分だけが気付けなかった! この街にいてもおかしくない学生の身分を装っていたことを差し引いても、「魔」の気配を隠すことにかけては少年の方が上手であるようだった。 また、ふと店の奥に目をやってみると、マスターが眠るようにカウンターに突っ伏している。さっきの魔術を目撃されることを恐れての少年の仕業だろうが、それすらも不可認の内にやってのけたとは、想像を絶する力量である。 長袋の男は少年の『役割』を推察した。 「お前さん。暗殺者か」 「いえいえ。とっくに廃業して今はしがないスパイですよ。自分みたいな容姿の人間は、この街に入り込む分には重宝されましてね」 ナイフの切っ先は右と左、二人の男の間を油断なく揺れ動く。 すぐに追撃してこない所を見ると、先ほどの物質分解は連発が出来るタイプの魔術ではないらしい。あるいは制限のようなものがあるかだ。その隙に男達は己の獲物を準備する。 長袋から引き出されるのは、波打つ刃を持った西洋風の長剣――フランベルジェ。 ボストンバッグから取り出されるのは、小型の弓が機巧(からくり)で取り付けられた篭手。 男達が装備を整えるのを、少年は黙して許した。余裕からかそれとも時間稼ぎのためか。 どちらにせよ、武器を下ろさないということは、 「お前さんも混じりたいってことだな?」 「ええ。是非。……自分は静かに日々の暮らしを過ごしていきたいと思っているのに、何故かいつも邪魔が入るので少しムシャクシャしていたところです。それに貴方がたのような輩を見過ごしておくと、申し訳の立たない人が近所にいますしね」 黒石のナイフが掲げられる。照準は少年の真正面。窓だ。 長袋の男――もとい長剣の男は野蛮な笑みを見せて獲物を振り上げる。 「ははは。そういや俺の知り合いにもおるのよな。あんたらみたいなのを見かけたら後先考えずに殴りかかりそうなのが。祭りの前だ、余計な気苦労かけさせんよう骨を折っておくのも大人の責任かもしれんわな」 黒尽くめの男――もとい篭手の男は静かに機巧を動かし弦を巻き上げる。 「奇遇が多いな。私の恩人もこの街にいる。もし彼が貴様らのことを知れば……いや、ここで終わらせれば済むことだ」 そこで会話は終わった。 刹那の後。 閃光と白氷と烈風、三種の力で窓ごと喫茶店の壁が吹き飛ばされたのを合図に、戦場が始まった。 さて。 関係ない話はこのくらいにして、そろそろ本筋に戻るとしよう。
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『とある暗部の未元物質』5 浜面仕上は普通の人間だ。 浜面仕上はごく普通の高校生だ。 浜面仕上はごくごく普通の無能力者だ。 よってRPGの主人公のように秘められた伝説の力や、映画の主人公のように物理法則を無視したような無茶苦茶なアクションができるわけではない。 しかし、そんな没個性人間・浜面仕上は謎の黒づくめ集団の凶弾から逃げるべく、プロのスタントマンも真っ青なスーパーアクションを決め込んでいる。 どうしてこうなったのか。話は45分程前に遡る。 「あぁ、今日は買出しの日だったわ。途中でスーパー寄ってかないとなー」 浜面は自宅の冷蔵庫の状況を思い出しながらそんな事を呻いた。 浜面が借りているアパートは第七学区の西。第九学区と第十五学区のほぼ境目と言ってもいい場所だった。 なので数多くの学校が密集している中心街や『学舎の園』がある南方面と比べると人気の無い場所でもあった。 とは言っても、今は午後二時を少し過ぎたあたり。まだ辺りは充分に明るいし、ポツリポツリではあるが通行人もいる。もちろんいきなりビームを乱射してきたり、クレーンで襲撃するような事は起こるはずがない。 しかし。 前方十時の方向に何やら蠢く二つの物体。 否、人間。 一つは黒。一つは明るい黄色。 あれー?アレどっかで見た事あるよなぁ?つーかあいつらあれで隠れてるつもりなのかなぁ?どうしよう?俺はここで声かけるべき?orスルー? などと浜面が色々と面倒になりそうだなぁ、などど考えていると隣にいた滝壺が浜面の右腕をぐいっと引っ張り、 「あの人達、なんか苦しんでるよ」 いやあいつらは絶対そうじゃない、と浜面が返そうとした瞬間、前方にいた人影が気配を察したのか、こちらを向いた。 「む…。お、おおおおおぉぉぉぉ!!浜面じゃねぇか!!」 数年来の親友に会ったようなリアクションで歩み寄ってきたのは黒の物体、改め服部半蔵。トコトコとその後ろを郭がついてきた。 「えーと…。色々とツッコミたいところではあるんだが、とりあえず何してるんだ?お前ら…」 浜面の至極当然の質問に少し逡巡してしまう半蔵。 今現在、浜面はスキルアウトを離れ普通の高校生として生活している。風の噂では普通にアルバイトをしている姿を見た、という話も聞いた。 もう浜面仕上は汚い裏路地で手を汚すような事をしている人間ではないし、するべきではない。その事は半蔵自身、浜面の親友として理解していた。 しかし。スキルアウトのリーダー代理として、浜面仕上という人間に復帰して欲しいという気持ちもまた半蔵の本心でもあった。 だが、後者は絶対に浜面に悟られてはならない。悟られでもしたら浜面の性格だ。「俺が何とかする!」なんて言い出してまた無茶するに決まってる。 なので半蔵は適当に理由をつけて浜面をはぐらかし、早々にこの場所を去ろうとしたのだが――、 「浜面氏。私達、『原石』について調べてたら学園都市の連中に追われる羽目になったんですよ」 うぉぉい!!何でそんなあっさり正直に言っちゃうのよ!俺の苦悩と堅い決意はなんなのよ!!と、言いたげな半蔵は漫画のようなリアクションで郭に無言のツッコミを入れる。 が、当の郭は悪びれる様子はないし、それどころか気付いてもいない。 そんな半蔵を無視して浜面はイマイチ状況が掴めないので首を捻りつつ疑問を投げかける。 「なんかよく知らねえけど…とりあえず『原石』って何だ?お前ら今度は宝石でも作るのか?」 「いや、そうではなくて…。『原石』というのは――」 浜面のあまりにも的外れな話に内心呆れつつも郭が説明しようとしたが、それは叶わなかった。 原因は半蔵。 半蔵が浜面に飛びかかり、強制的に地面に伏せさせたのだ。状況が理解できない三人。しかし結論はすぐに導き出された。 先程まで半蔵が背を向けていた壁に刃渡り三十センチ程のサバイバルナイフが突き刺さっていた。それは正確には半蔵を狙ったものなのだが、延長線上に浜面がいた為、結果的に浜面が狙われたような恰好になったのだ。 状況を飲み込み三人の表情にも緊張が走る。 そこからは早かった。 危険と認識するや否や、言葉も交わさずに彼らは散り散りになった。 浜面と滝壺、半蔵、郭、と三方向に分かれて走り出した。 スキルアウトは無能力者の集まり故に、純粋に戦闘に特化した人員はごく一部である。そういった彼らが『警備員』や『風紀委員』、能力者相手に立ち回るには逃げの一手が基本になる。 逃げて逃げて、闇に姿をくらまし相手の不意をつく、それが彼らスキルアウトの戦闘セオリーなのだ。 その為、どんな場所にいてもその場に合わせた逃走ルート、潜伏場所は常に頭に叩き込んである。 特に浜面はスキルアウトの『アシ』の役割を担っていたので逃走ルートの把握は他のスキルアウトのメンバーとは一線を画すものがあった。 実際に浜面が逃げ込んだルートには追っ手の足音が聞こえてくるものの、みるみるその距離を離していっている。 「(何だかよくわかんねえけど、何かおかしな事に巻き込まれたのか!?つーか咄嗟に体が反応して裏路地走り回ってるって…これってある種の職業病なのか~!?)」 そして今に至る。 「ちくしょう!何となく嫌な予感はしてたんだ!でも何だってあいつら俺らを集中的に追ってきやがるんだ!!ターゲットは半蔵達じゃなかったのかよ!!」 ほとんど吐き捨てるように絶叫し逃走する浜面とその手に引かれる滝壺。 「(今手元にある獲物は護身用ナイフだけか。まぁ普通に生活するんだったら拳銃はいらねえもんなぁ…。もっともあの人数相手じゃ拳銃一丁あったって焼け石に水だろうけどよ!)」 追っ手の黒ずくめの集団は目測で七、八人。ただ、連中が各個撃破で追っていると仮定すれば全体の数は二十人以上は確実にいると思われた。 「(可能性は低いとは思うが、もし半蔵達と鉢合わせになった場合、当然奴らとも鉢合わせになる。そうなれば数的不利は否めないよな。だったらイチかバチかどっかに身を隠してやり過ごした方が得策かな…!)」 浜面は路地の角を左に曲がろうとした。彼の記憶が確かならその先には盗んだ金を隠す為に使われていたスペースがあったはずだ。そこに二人も入るのは厳しいが、隠れる場所としてはもってこいの場所だった。 しかし。 ドス、と何かを突き破るような音が聞こえたと思ったら浜面の動きが完全に止まった。 「ぐっ!?あっつ…!!」 浜面の左脇腹にナイフが突き刺さっていた。波状になったキルパンのようなナイフだった。そのナイフは皮膚を突き破り肉を裂くだけではなく、その傷口を抉り取るような形状をしていた。 別ルートから回り込んでいた襲撃者は浜面がこのルートを通るのを見透かしていたかのように待ち構えていたのだ。 浜面は絶叫しなかった。それは声によって追っ手に居場所を知られるのを恐れたわけではない。ただ単純に痛すぎたのだ。体幹から来る凄まじい痛みに声を上げる事すら脳が拒否していたのだ。 「はまづら!!――!?あうっ!」 滝壺は思わず浜面の名を呼んだが、直後、襲撃者の裏拳を喰らい吹き飛ばされてしまう。 その光景を見た浜面は思考が一気に沸騰する。しかし激痛と激しい怒りでまともな思考が働かない。何より体を動かす事が出来なかった。 「(体の感覚が―な、い?何でだ!?毒か!?奴らの能力か!?くそ!動け、動けよ俺の体!!)」 怒りと混乱と焦りと悔しさで思考が滅茶苦茶になっている浜面をよそに襲撃者は上半身のポケットから一丁の拳銃を取り出した。 浜面は自分の体温が下がっていくのを実感した。 襲撃者は倒れている滝壺に照準を合わせ、引き金に指をかけた。 「(何で何でだ何でだよ!!!何で俺は何もできねえんだ!!ちくしょうが!!これじゃ前と何も変わってねえじゃねえか!!!)」 憤怒による鬼の形相と、悔しさからくる泣き出しそうな表情が混在した浜面を一瞥してから襲撃者はゆっくりと引き金を引いた。 『とある暗部の未元物質』6 「あー…何だってお前らがここにいるんだ?つーかお前らの組み合わせって一体ナニ?」 厄介なモノを見つけてしまった、とばかりにテンションの低い声を出しているのは黒髪ツンツン頭の上条当麻。 「いや、別に僕も好き好んでこんな所にいるわけではなくてね。まぁ有り体に言えば仕事ってところだよ」 こっちこそ変なゴミを拾ってしまった、とばかりに嫌味を交えて答える炎の魔術師・ステイル=マグヌス。 「別にいちいち挨拶するような仲じゃないだろ?時間が無いのだからさっさと始めましょう」 男同士の喧嘩なら後で勝手にやれ、とばかりに呆れているのは大地を掌握する魔術師・シェリー=クロムウェル。 御坂美琴から理不尽かつ無慈悲に電撃を喰らった挙句、待ち合わせをしていた筈の姫神とはぐれてしまい、やや茫然自失していた上条当麻であったがいやはや、また一悶着ありそうだ、とこれまでの経験則からこの先の展開を推測する。 「で、何なんだよ?その仕事ってのは?」 「ん…ちょっと人が多くないかい?この時間帯というのは学校の授業じゃないのか?僕達も馬鹿じゃないし、少しでも人が少ない時間帯を狙って侵入したわけなんだが…」 「テメエは人の質問に答える気は微塵も無いんですかそうですか今は一端覧祭っていう学園祭の準備だからほとんどの学校は授業無し有志の連中がその準備をしてるんダヨ」 上条は案の定とも思えるステイルの返答に対し息継ぎなしの無機質な機械音声のようなトーンで返した。 「成程。いや、僕は先の『使徒十字』の件といい、今回といい、どうも祭りという類のものに好かれているのかな」 「そんなモン知るかよ。で、いい加減に答えてもらいたいんだが、仕事ってのは何なんだよ。俺だって暇じゃないんだし、関係無いならさっさとこの場を立ち去りたいわけなんですが」 「じゃあ私が説明しましょう。上条当麻。お前、『魔神』ってのは知ってるか?」 横合いから口を挟んできたのはシェリー。上条とステイルとのやりとりに無駄な時間を過ごしたという思いが強いのか、上条を見る視線が心なしか少し鋭い。 「マジン…?って何だそりゃ?あれか?漫画とかゲームで出てくるモンスターみたいな奴か?」 科学に囲まれた世界で暮らしているのなら当然の反応な筈なのだが、全く的外れな反応に呆れを隠せない魔術世界で育ったシェリーとステイル。 「『魔神』ってのは魔術を極めた結果神の領域にまで足を突っこんだ人間を指す言葉よ。よってお前の言うモンスターとかいう表現は適切じゃないな」 「人間か…何だかよくイメージが沸かないが、そいつがどうかしたのか?」 上条の何の事も無いような質問に魔術師の二人はこれまでとは少し違ったある種の緊張感のある空気を作りだす。 「その『魔神』が学園都市に向かっている」 言ったのはステイル。 「何だって?でもどうして?」 「それはわからないわね。目的もよくわからないし。ただ確実に言える事は一つ。その『魔神』はこれまでのどんな魔術師よりも強いわよ。はっきり言って神裂が加勢した所で時間稼ぎにもならないだろうな」 「…あの右方のフィアンマって奴よりもか?」 「だろうね。奴の『聖なる右』は結局不完全な顕現だったが…それを差し引いても『魔神』はレベルが違いすぎる」 冗談じゃねぇぞ、と上条は思う。 神裂やアックアと言った聖人、騎士団長、前方のヴェント、天草式や騎士派の精鋭、イギリス清教に属する高レベルの魔術師らを総動員してやっと退けた右方のフィアンマを遥かに上回る魔術師がいるとは。 しかし上条には解せない事があった。 「でもさ、そんな強い魔術師が勝手に動いたら色々と面倒が起きるんじゃないのか?ほら、神裂とかは勝手に動けないとか制約があったじゃんか。神の右席が来た時だって一応ローマ教皇の許可があったって話だったじゃねぇか」 「うん、神裂はイギリス清教に属する魔術師だからね。君には理解できないかもしれないが、魔術世界にも色々とルールってものがあるんだよ。彼女はそのルールに準じて活動している。もちろん僕達もね」 だが、とステイルは付け足して、 「『魔神』にはそれがない。奴は魔術世界に身を置きながら、宗派はおろか魔術結社にすら属さない完璧な孤高の魔術師なんだよ」 「孤高の…魔術師……」 上条は息を飲む。 「魔術世界はローマ正教、イギリス清教、ロシア聖教の三者により構築されているのは、これまでの事からわかっているよね。これらはそれぞれが不可侵条約なるものを作って表立った正面衝突を防いでいるわけだが――」 ステイルは吸い終わった煙草を携帯灰皿に入れ、新たな煙草に火をつける。煙草独特の匂いにわずかに顔をしかめたのはシェリー。 「しかし個人で動く『魔神』にはそれが適用されない。そもそも適用された所で奴を止める手段は皆無なんだけどね」 「それで…これからどうするんだ?」 「とりあえず僕達の仕事は禁書目録の保護だ。とは言っても無理矢理君と引き剥がしてイギリスに連れ帰るわけじゃないから安心していいよ。癪ではあるが君も保護対象になってるみたいだからね」 「俺に何かできる事は――」 「勝手に動くのはよしてくれよ。これからあたし達は防御用の結界を張らなきゃならないのよ。あんたのその右手で壊されたら二度手間になるだろ?」 上条の言葉を遮ったのはシェリーだった。 返す言葉が見つからない上条をほくそ笑みながら、ステイルは言う。 「まぁ防御用の結界は保険のようなものだ。戦闘になると決まったわけじゃないし、話し合いで解決できるものであればそれに越した事はないからね。こちらから過剰なアクションを起こす必要もないだろう」 言いながら上条の肩をポンと叩く。 「まぁここまで色々と説明したが、まずはあの子と合流しなくちゃ話は始まらないわけなんだけど…あの子はどこにいるんだい?」 上条は鬱陶しそうとステイルの手を退ける。 「あぁ…そういや小萌先生の所に行くって言ってたな。まぁここからじゃそんな遠くはないし、すぐに落ち合えるだろ」 「よし。じゃあ早速案内してもらおうか。事態は急を要するだろうからね」 『とある暗部の未元物質』7 垣根帝督は学園都市内のとあるコンビニの中にいた。少し小腹が空いたので食料調達に来たというわけだ。 「(ったく、前だったらこんなもん下っ端の野郎を使い走りさせれば済んだ話だったんだけどな。まぁこうやって俗世に触れるのも悪くはねえが――)」 ピリリリッ、という携帯電話の着信音に垣根の思考は遮断された。 誰だこの野郎、と舌打ちしながら携帯電話を取り出すと、そのディスプレイには番号のみが表示されていた。 「(非通知じゃねぇのか?こっちの番号知ってる奴なんてそんないない筈だし、そもそも連中がこんな番号丸出しでかけてくるわけねぇんだけどな)」 垣根は携帯電話を二つ持っていた。一つは『表』の世界で使うもの。一つは『裏』の世界で使うもの。今鳴っているのは後者だ。 考えても仕方ないしとりあえず出るか、と結論を出し通話ボタンを押す。 『お、やっと出たか。用足さない携帯だと思って呆れそうなところだったんだけど』 「ん?誰だお前?」 『随分な言われ様だけど。お前は三時間前に話した人間の声を忘れてしまう程物忘れが酷いのか?』 「ん…あー雲川か。お前何で俺の番号知ってんだよ」 クスッ、という笑いが電話越しに聞こえ垣根は言葉では言い表せないような不快感のようなものを感じた。 『そこは気にするなよ。乙女の秘密という事にしといてくれると嬉しいけど』 「はいはい。で、何用よ?」 『いやあ、そろそろ学園都市の異変に気付いてもらえたかな、と思ってね。復帰に向けての試運転も上々だったと思うんだけど?』 「テメエ全部知ってやがったのか。あいつはお前の差し金…ってわけでも無さそうだな。お前がそんな事するメリットがあるわけねえもんな」 言いながらレジの店員に商品を預けた。直後、店員がビクッ!と肩を震わせたが垣根はそんな事には気付いていない。 『それはそうだ。学園都市第二位に喧嘩を売るほど私は馬鹿じゃないけど』 「じゃあ何なんだ?『ブレイン』とも呼ばれるお方がわざわざコンタクトを取ってきたんだ。下らん世間話じゃないんだろ?」 『察しが早くて助かるよ。それじゃ早速本題に入ろうか。昼間にお前達の『役割』について話したと思うんだけど――』 「あぁ、一方通行の野郎と俺と、それと…削板って奴の話か?」 『そうだ。まぁお前はある程度知っていそうだが、私の方も色々ツテを辿って新しい情報を掴んだんだよ。それを特別に教えてやろうと思ってな』 「これはこれは有難い、と言いたい所なんだが、またどういう風の吹き回しだそりゃ?何だか色々と後が怖いんだが」 『まぁ黙って聞けよ。お前にとっても悪くない話だと思うけど?』 「…」 沈黙は無言の了承。 『さて、いきなり質問なんだが、アレイスターはどうして学園都市を作ったと思う?』 「あ?そんなの俺が聞きたいくらいなんだが?」 『そうだな。では第二の質問だ。一方通行の能力とは何だ?』 「そりゃ『ベクトル操作』だろ?つーかお前俺の事舐めてるだろ?」 垣根は会計が終わったレジで商品を受け取り店の外に出る。午後の陽気のせいか外が少し静かな感じがする。 『では最後の質問だ。一方通行にも操れないベクトルは存在すると思うか?』 「……」 ない、と答えるのが普通だ。 しかし『ブレイン』と呼ばれる天才少女がわざわざこんなわかりきった事を聞いてくると少し勘繰ってしまう。だからこそ垣根はわずかの間を置いて答えた。 「ある、というのが正解なんだろうな」 『では、それは何だと思う?』 雲川の声に笑いのような感情が混じっているような気がした。 「それをお前が教えてくれるんじゃないのか?」 もったいぶってないでさっさと結論を言え、と垣根は思う。 『そうだったな。いや、失礼。私はどうもこうやってもったいぶって話すのが大好きみたいだけど。まぁ悪く思わないでくれ』 雲川は笑いながら言うと、その笑いが引くまで言葉を止めた。 そして数秒の沈黙の後、彼女は一言だけ、ゆっくりとこう言った。 『「時間」――だよ』